複合材料の高強度発現の仕組みを解明し,制御する

機械工学専攻
連続体力学分野 教授
北條正樹(ほうじょう まさき)


主な研究内容

 複合材料は軽量で高強度・高弾性率を実現する新材料である.複数の素材を組み合わせて単一の素材では実現できない特性を実現する「賢い」材料であり,エネルギー変換や輸送の効率向上を実現する「環境に優しい」材料でもある.そのため,航空・宇宙,ガスタービン等の分野で複合材料は構造材料として利用およびその検討がなされており,安全性・信頼性の立場から破壊,疲労強度の評価が重要である.
 複合材料は一般に数μm〜数十μmの微細な強化材(繊維等)が1cm2の断面に105〜106個も入っており,破壊はこの多数の繊維と母材および界面の協力現象として発生する.図はその一例である.このような場合,破壊現象は繊維,その幾何学的配列と橋掛け現象,界面特性,母材およびその幾何学的配置に大きな影響を受ける.すなわち,物理・化学法則により決まる原子集合体の微視的な特性よりも,マクロとの中間的な構造が,材料全体のマクロな特性を支配する.この中間的な構造はメゾ構造と呼ばれ,このようなメゾ領域の微視的構造をもつ材料がメゾ材料と呼ばれる.複合材料の真の破壊機構の解明のためには,複合材料をメゾ材料としてとらえ,破壊過程の協力現象を解析する必要がある.これをメゾメカニックスと呼び,個々の繊維や界面の破壊といった微視的なメゾ事象,材料全体のマクロな破壊,これらの巨視・微視相関関係の把握はもとより,全体を通した力学体系を構築することを目標にしている.さらに,メゾメカニックスに基づき,メゾ構造を制御することにより,材料の機能を効果的に発現する系統的な材料開発と今後の飛躍が期待される.

(1)繊維強化複合材料の破壊におけるメゾメカニックスの確立

 炭素繊維強化樹脂基複合材料,炭素繊維強化炭素基複合材料,SiC繊維強化セラミック基複合材料等の破壊靭性,疲労き裂伝ぱ特性等の構造材料として重要なマクロな力学特性と,メゾ構造の特性の相関関係の解明,定量化の研究を進めている.樹脂基複合材料では,樹脂の靭性,繊維/樹脂界面強度等のメゾ構造がマクロな破壊特性に及ぼす影響の定量評価を行っている.また,炭素を含むセラミック基複合材料では,母材の靭性が本質的に小さいため,特性改善のためには,メゾレベルでのき裂の分岐によるマクロき裂進展阻止が重要な課題である.界面強度がメゾレベルからマクロなレベルまでの破壊機構に及ぼす影響の定量化と機構の解明に取り組んでいる.

(2)メゾ構造の制御とインテリジェント化

 樹脂基複合材料において,樹脂や界面特性の改善では層間破壊靭性の向上には限界のあることが明らかとなっている.そこで,層間の樹脂層の素材と厚さを制御することにより,靭性の最適化を図るとともに,熱可塑性樹脂を用いることにより,損傷が生じたあとの修復を可能とするインテリジェント化に取り組んでいる.セラミックス基複合材料においては,製造時の熱処理温度等を変化させることにより,界面強度を制御し,強度の最適化を図る研究を進めている.

(3)メゾ事象評価法の開発

 メゾメカニックスの確立のためには,微視的なメゾ事象の直接評価が必要である.一例として繊維/母材界面の静的および疲労強度の高度な定量測定法の開発を行っている.樹脂基複合材料において,繊維が複合材料中に存在する場合と同じ境界条件での定量評価を行い,破壊の起点と進行状況の解析に取り組んでいる.


今後の展望

 中期的には,メゾ構造が破壊に及ぼす影響を体系的にとらえるメゾメカニックスが確立し,メゾ構造を制御したより高性能な複合材料の開発と正確な破壊予測が可能になると考えられる.長期的には「損傷が生じても自己修復する」といった「夢の材料」であるインテリジェント材料の開発につながると考えられる.真のインテリジェント材料の実現のためには,原子,分子レベルでの組織制御を行い,センサ,判断,エフェクタ機能を材料中に導入する必要があり,メゾ構造の制御なしでは実現は考えられない.これらのように,「メゾ構造の制御による最適化」が今後の材料研究の中核となる方法論の一つとして位置づけられることを期待している.


経歴

1979年京都大学工学部機械系学科卒業,81年同大学大学院修士課程修了,同年工業技術院製品科学研究所(現物質工学工業技術研究所)研究員,87年スウェーデンプラスチックスゴム研究所客員研究員,88年製品科学研究所主任研究官,90年工学博士,92年京都大学工学部附属メゾ材料研究センター助教授,01年京都大学工学研究科教授


所属学会

日本機械学会,日本材料学会,日本複合材料学会,日本金属学会,ASTM,強化プラスチック協会,日本接着学会,複合材料界面科学研究会