Last updated on May 7, 2003.

研 究 紹 介

このページは,4回生の研究室訪問(2003年4月)用のパンフレットをHTML化したものです.


1.スマート複合材料

 複数の素材を組み合わせた複合材料は,軽量で高比強度・高比剛性を実現する「賢い」材料であり, エネルギー変換効率向上を実現する「環境に優しい」材料である.また,ナノテクノロジー技術の援 用により,材料に自己修復機能を組み込むなどのさらに賢い機能を有する「スマートマテリアル」の 実現も視野に入ってきた.当研究室では,破壊力学,マルチスケールメカニクスの立場から,航空・ 宇宙分野での機体およびエンジン材料,磁気浮上列車の超伝導磁石とその荷重支持部および車体,エ ネルギー分野でのガスタービンや核融合炉材料等の先端分野に用いられている先進複合材料の性能向 上と応用分野開拓のための基礎的研究に取り組んでいる.さらに,新材料の創製や生体組織の再生工 学分野への応用を目指して,自己修復性を持つ究極のスマート材料としての骨の再生過程および細胞 レベルでの力学応答特性に関する基礎的な研究に着手した.

Boeing 777:当研究室で疲労強度試験した材料が
水平・垂直尾翼,床下支持板に用いられている.
磁気浮上列車:当研究室で評価した材料が
超伝導磁石,荷重支持体に用いられている.
宇宙開発(H-IIAロケット)
機体,エンジン部材
大腿骨内部の骨梁構造 培養骨芽細胞の細胞内骨格

2.先進材料の階層構造とメゾメカニクス

 複合材料の内部を詳細に見ると,一般に直径数mm程度の微細な強化材(繊維)が1cm2の断面に106 個も入っている.繊維はぜい性材料で強度にばらつきを持っており,通常は1本の繊維破壊が材料全体 の破壊には結びつかない.複数の繊維,母材および界面の損傷が徐々に進行し,最終的に負荷荷重に 耐えられなくなって材料の最終破壊が発生する.この場合,破壊現象は繊維,その橋掛け現象,界面 特性,母材およびこれらの幾何学的配置といったメゾ構造に大きな影響を受ける.すなわち,材料は, 物理・化学法則により決まる原子集合体のミクロな特性,ミクロとマクロの中間的であるメゾ構造, マクロな材料特性という階層構造を有している.このメゾ構造を人工的に制御することが材料の高性 能化につながる.
 各メゾ構造の変形・破壊及びこれらの相互作用とマクロな破壊に至る過程を記述する力学をメゾメ カニクスと呼ぶ.当研究室では,複合材料や超伝導材料をメゾ材料としてとらえ,メゾメカニクスに よる系統的な材料開発確立のための評価技術に取り組んでいる.

積層材料 繊維強化複合材料

注:「メゾ」とは,メゾソプラノやメソポタミアなどにみられるように,中間を意味する接頭語である.材料工学の分野では,原子レベルの「ミクロ」と材料全体の「マクロ」の中間のnm〜数十mmの領域をメゾ領域と呼ぶ.

3.スマートマテリアルの将来

 生物が有している自己増殖性,自己修復性,自己診断性,自己学習性および環境適合性を材料や構 造に取り入れることを,材料・構造のスマート化と呼ぶ.当研究室では,生体のリモデリングによる 機能的な適応能力を,骨を代表例として検討を開始している.マクロな骨は,骨梁構造,骨芽細胞, 細胞内部構造という階層構造を有しており,これに対してマルチスケールメカニクスを確立するとと もに,得られた情報を新材料創製に資することを検討している.将来的には,人工材料にセンサ,プ ロセッサ,アクチュエータの各機能を組み込み,自ら置かれた力学的環境やその変化を感知・適応し, 損傷により失われた機能の回復も可能なスマート材料の実現が望まれている.さらに,これらの技術 は,生体組織の再生工学分野への応用も可能である.

4.現在の具体的な研究テーマ(少し重いかもしれませんが,ご覧下さい.)

#いずれのテーマも高精度実験と計算機シミュレーションの両面から検討している.

・航空機構造用複合材料のメゾ構造制御による高性能化

・繊維強化複合材料の変形・破壊挙動のメゾスケールシミュレーション

・先進複合材料のメゾ事象とマクロ特性の相関の高精度評価法の開発

・高温超伝導材料の力学特性と超伝導特性の相関の検討

・スマートマテリアル創製原理の探究

・骨のリモデリングによる適応と組織再生過程の力学的検討

・生体組織・細胞システムのメカノバイオロジーとその医工学応用