バイオ・ナノ技術の融合による新たな材料・構造と機能創製の展開

【先進複合材料におけるバイオ・ナノ技術の融合

航空・宇宙,磁気浮上列車,エネルギー,バイオ等の先端分野に用いられる先進材料に対して,さらなる高性能化・高信頼性の実現,環境との調和や先端技術との融合が益々期待されている.特に,複数の素材を組み合わせた複合材料は,軽量で高強度・高弾性率を実現する「賢い」材料であり,エネルギー変換効率向上を実現する「環境に優しい」材料である.当研究室では,先進複合材料のメゾ・ナノ構造の評価・最適制御手法,生体組織・細胞の持つ自己診断性や修復性,環境適応性の研究を行っている.また,メゾ・ナノ先端技術を援用することにより,環境に優しくスマートな新たな高性能材料・構造の基礎的研究に取り組んでいる.さらに,これらの複雑な階層システムに着目し,マルチスケールメカニクスの視点から,新たなバイオ・ナノ技術の融合を目指している.
【マルチスケールメカニクス
先進複合材料においては,メゾ領域での挙動が材料全体のマクロ特性を決定するが,これらのメゾ構造はミクロに見れば原子・分子の集合体である.また,究極のスマート材料である骨においては,ミクロには,骨芽細胞・破骨細胞・骨細胞の活動による骨のリモデリングによって力学的環境の変化に適応できる骨梁構造が作られ,骨梁構造の集合体として,骨としての機能を果たしている.
 このように,先進複合材料と究極のスマート材料である骨は,類似の力学的・機能的階層性を持つ.当研究室では,この類似点に着目し,先進複合材料と究極のスマート材料である骨の階層的力学システムの解明に取り組んでいる.マルチスケールメカニクスの立場から,マクロには,構造レベルの構造と機能の制御の機序を明らかにし,ミクロには,細胞や組織に対して人為的な操作を加えることで,細胞や組織の産生するマトリクス分子・材料のミクロレベルの制御を実現することを目指している.これにより,スマート複合材料実現に寄与することを目指している.

注:「メゾ」とは,メゾソプラノやメソポタミアなどにみられるように,中間を意味する接頭語である.材料工学の分野では,原子・分子レベルの「ミクロ」と材料全体の「マクロ」の中間のnm〜数十mmの領域をメゾ領域と呼ぶ.

【メゾ・ナノ構造制御高性能先進複合材料の強度発現機構のメカニクス】

 CFRP(炭素繊維強化プラスチックス)は,軽量で高強度・高剛性の特長を活かし,航空・宇宙等の先端分野に広く用いられている.近年は,強化繊維,母材および繊維/母材間界面といった数nmから数十mm程度のナノ・メゾ構造の制御により高性能化された材料が,実用化されるようになった.また,磁気浮上列車等に用いられる超伝導線は,繊維状超伝導体を利用した機能性先進複合材料であるが,微小ひずみでの超伝導体の損傷が問題となっている.先進複合材料の複雑な力学・機能特性発現機構について,マクロ・ミクロ階層間相互作用のメカニクスの立場から実験と数値解析により検討し,材料設計・製造法へのフィードバック,安全・信頼性向上,エネルギー効率向上に貢献している.

【生体組織・細胞の適応のバイオメカニクス】

 生体組織・細胞は,自らの環境の変化に対して,リモデリングにより機能的に適応することが知られている.このような自己診断性,自己修復性,あるいは環境適応性に学びながら,新たな構造・材料の創製を目指した研究を進めている.また,生体システムとしての複雑なふるまいや,階層構造間の相互作用が生み出す巧妙なメカニズムをバイオメカニクスの観点から理解し,生体と人工物の新たな調和・融合の発想や技術の提案を目指している.

【ナノ・ミクロスケール力学特性評価法の開発】

 メゾ・ナノ構造を最適制御した高性能先進複合材料を理論に基づいて設計するためには,材料内部のメゾ・ナノスケールでの力学特性の定量評価法確立が不可欠である.また,細胞においても,力学刺激に対する応答特性をミクロに解明するためには,同じメゾ・ナノスケールでの特性評価法を開発する必要がある.本研究室では、先進複合材料における界面破壊の定量評価,細胞の変形特性評価を光学・電子顕微鏡中で行う手法を開発するなど,ナノ・ミクロスケールでの力学特性評価技術の開発に取り組んでいる.


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